陶芸で鋳込み型を自作するにあたっては、石膏の特質や知識が必要になります。その上で石膏を正しく使える知識と技法の習得が必要です。
このブログは一般的な石膏の知識と、石膏を使った鋳込み型の手順や技法を紹介します。 この内容は”石膏技法” 美術出版社 著者、柳原明彦さんの文献やインターネットで収集した知識、そして、京都の窯元で教わった知識をまとめたまのです。
蛇足ですが、本は図書館にもあると思いますので、興味がある方は借りて読まれることをお勧めします。楽天で検索してみましたがこの本は見つかりませんでした。もしかしたら廃番になっているのかも?
石膏の歴史
人類は紀元前2600年には、石膏を使う技術を知っていた。エジプトのピラミッドやスフィンクスも石膏で固めてあったそうです。古代エジプトでは、王の食器や壺が使われていました。ローマ時代には焼石膏が彫塑に用いられ、ルネッサンス時代には焼石膏の利用は頂点に達した。
16世紀中ごろには、型おこしの石膏型が使われていたそうです。そして、泥漿鋳込み成型方法は18世紀に始まり、19世紀になって石膏型が導入された。
石膏を意味する英語はプラスター(Plaster), 正式名称はジプサム(gypsum).
石膏の成り立ち
石膏は、海水や湖水の硫酸カルシュームが水に溶けにくいため沈殿し、水性鉱床になります。これは、岩塩や石灰石が良く知られています。石灰鉱床は世界中に分布しており、石灰層と岩塩層に挟まれている事が多いようです。
日本で産出する石灰は温泉と共に溶けだした硫酸カルシュームから出来たもので、交代鉱床と呼ばれるます。その為、日本の石灰は多くの不純物を含んでいるそうです。硫酸カルシュームは(CASO₄)
天然に産出する石膏鉱石には二水石膏と結晶水を全く含まない無水石膏があります。
石膏は天然のものはそのままでは使えません。焼石膏と言って、石膏から水分を抜く必要があります。その為に加熱をする必要があるのですが、方法は二つ。圧力窯で蒸す方法(α半水石膏)と150℃位で焼く焼石膏(β―半水石膏)があります。
半水石膏は水と反応して、安定した二水石膏に戻ります。その時、膨張と発熱を伴って凝結硬化をします。又、石膏の強度は混錬時の温度、混水量、攪拌時間、攪拌速度などに影響されます。
陶磁器型材用石膏
石膏には多くの種類があり、その中で、陶芸に使われる石膏は陶磁器型材用と言う種類です。
同じ陶磁器型でその用途に応じて性質の違ったものが使われます。又、JIS規格で品質が細かく規定されており、特級、A, B, C級に分類されてます。一般に上級のものほど標準混水量(使用する水の量)が少なく、色白、きめ細かく、強度や耐久性に優れています。
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石膏作業
道具
道具名称 | 用途 |
混錬容器 ビーカーステンレス(写真 上) | 石膏と水を入れて混錬するための容器でポリバケツや注入口の付いたステンレス製容器。アルミ、ホウロウ、ガラス不可 少量の場合はミルクパックも使用可。 |
攪拌棒 | 石膏と水を攪拌するのに使います。プラスチックや木の丸棒で。角棒は気泡が入るので不可 |
はかり | 石膏粉や水を計るのに使います。家庭用の2~4kgの計り |
シフター | 石膏をむらなく水中に投入をするのに使います。無くても良い |
ふるい(写真 下) | ふるいは20メッシュ程度のステンレス製が良い。 |
バイブレーター | 石膏を流し込んだ型に振動を加える。無くても良い |
木槌かゴムハンマー | 型を外す時に使います。 |
のみ | ”き、鍵”を作る時や、型を分離するときに等で使います。 |
ステンレス定規 | 石膏が柔らかい時にラフに削り成型します。 |
粘土 | 壁を作ったり目止めをしたりするのに使います。安い粘土や再生土を利用します。 粘土に付いた石膏は、石膏が固まったら水道の水を流してやれば自然に取れます。 指先で触ると逆に取れなくなります。固まった石膏でも下水に流さないように。 そして、プラスチック容器に保管して、石膏専用にしておきます。 |
離型剤
石膏を流し込む材質によってはあらかじめ離型剤を塗っておく必要があります。
吸水性 | 物質 | 離型剤 |
離型剤が不要なもの(水をはじくもの) | ロウ、ゴム、油土、シリコンゴム、 ポリエチレン、光沢のあるガラス | 不要 |
離型剤が必要なもの (水を吸収しないもの) | プラスチック、金属、塗料、光沢のないガラス | 油性の離型剤 シリコンワック ワセリンなど 細かな複雑な型の場合ワセリンを灯油で溶いたものか液体ワックス |
水を吸収するもの | 石膏、素焼きの土、木、石 | ワックス 又は カリ石鹸 化粧石鹸 〇 合成洗剤 X |
カリ石鹸の使い方
陶芸用のカリ石鹸はゼリー状です。6~7倍の熱湯を入れ良く溶かします。専用の容器を準備して保管します。やけどに要注意! キッチン用の計りに茶碗などを載せ、カリ石鹸を入れ重さをはかり、それを基準に熱湯を入れます。 カリ石鹸が2gであれば、6倍に薄めるのであれば、12グラムの水。熱湯を注ぎ14グラムにします。簡単な方法ですが、意外に思いつかない方法です。目分量は難しい。
- ラベル塗るタイミング 石膏を混錬する直前に塗ります。
- ラベル石鹸水を泡立てないように良くかき混ぜる
- ラベル刷毛にたっぷり含ませて、まんべんなく塗る。多少泡立てる位
- ラベル全体を塗り終わったら、良く絞った柔らかい布で溜りや泡を軽く拭きます。
窪みは良く拭く。 - ラベル10分おいて、同じことを少なくとも3回繰り返す。
- ラベル完了
混水量
焼石膏が水と反応して凝結硬化す必要な水の量(混水量と言う)の理論値は石膏粉に対し僅かに18.6%です。実際には、はるかに多くの水を入れないと混錬が出来ません。この実際に必要な水を混水量と言います。
石膏粉を100%とした場合のの重量比で現わします。1kgの石膏粉を750ccの水で混水すれば混水量は75です。混水量をどんなに増やしても、結晶水として反応する水の量は一定で、残りは自由水として、結晶の隙間に残ります。そして、石膏を乾燥させるとこの自由水は蒸発し、水があった部分は、微細な気孔が残ります。
この結果、自由水が多ければ多い程気孔が多くなり、吸水性は大きくなりますが、壊れやすいなります。
混錬条件と石膏の性質は、混水量だけではなく、攪拌の速度、攪拌時間、水温などで変わって来ますので、答えは一つではありません。気温も低い時の方が石膏の質は良く、夏場より気温の低い冬場、そして混水の温度は低い方が質が向上します。
ではどうするか。メーカーの推奨混水量を確認してそれを基準んとしてやって経験を積む必要があります。
混水量の計算と混錬の手順
まずは混水量を決め、混水する石膏量と水の量を決めます。その決め方は次の通りです。(これは京都の清水の窯元の経験則です)
具体的な例を挙げた方が理解しやすいので、円柱のタンブラーの一体型を作ります。
原形を作り、手轆轤に口側をしてに据え付け、それを塩ビシートで原形から30mmの間隔を空け囲みます(石膏の壁)。上部は原形の上部から30mmの高さまで、スラリー(石膏と水を混ぜたどろどろのもの)を流します。
鋳込みの石膏型がスラリーの水分を吸う事で成型されますから、壁が薄ければ、その水の吸収が不十分と言う事になり、上手く成型できません。
- ラベルスラリー(混錬した石膏)を流し込む空間体積を算出
原形体積=2.5 x 2.5 x 3.14 x 10=431.75
- ラベル塩ビ円柱体積 (高さ、130mm、直径 110mm)
原形の各部より、30mmの距離が必要
5.5 x 5.5 x 3.14 x 13=949.8
- ラベルスラリーを流し込むスペース体積=塩ビ円柱体積ー原形体積
949.85-431.75=518.1㎤=水の量 518 x 1.2=621.6 (混水量83%)
- ラベル結論 水 約520cc 石膏量 620グラム
原形と壁のスペースを水で埋める体積で、これに係数をかけ石膏の量を算出します。
もう一つのやり方は、スペースの体積に必要な水(520cc)を準備して、石膏を降りかけてやります。そして、水の表面から石膏の島が現れそれ以上沈まなくなったら適量です。途中で水を加えたり、攪拌をするのは不可です。
両方をやる方法もあります。容器に520ccの水を入れます。それに準備した620グラムの石膏をほぐすようにして水面にふりかけます。これが適量であれば、水面に島が出来ます。その時、1140グラム程であれば、計算は正しかったと確認できます。島が出来なかったら、少し石膏粉を追加します。
水の量は、容器を計りに載せ, 重さを計れば正確な水量が確保出来ます。
- ラベル容器に水を入れ、石膏粉をほぐしながら水にふりかけます。
石膏に水を入れたり、水に石膏を一度にいれるのは厳禁 だまや気泡が出ます。 - ラベル石膏を入れたら、そのまま約1分間 石膏全体に水が浸透するを待つ
- ラベル丸い棒で攪拌します。目的は石膏分子と水を均一になじませる為。
泡立てないように常に一定の速度と方向(逆転させると泡)を保って泡立てないように静かに力強くかき回します。棒であれば、200~300回、やや重く感じるまで攪拌します。時間は2~3分まで長くて4分程度を目途にしてください。
この重さは微妙な感覚で、集中して重さの変化を掴んで下さい。このタイミングを逸すると、スラリーの流動性が無くなり、上手く型に流せなくなります。
重くなったと感じたら、即座に型にスラリーを投入します。
- ラベルスラリーを即座に投入したら、ろくろを揺らしたり叩いたりして気泡を抜きます。
流し込み
攪拌が終わったらスラリーには気泡がかなり混入してます。容器を叩いたりゆすぶったりしえ泡を水面に追い出し、水面の泡を捨てます。そして、流し込みは静かに途切れないように素早く流し込みます。
複雑に入り組んだ部分や、庇の様に突き出した下側、コーナーや袋小路になっているところは空気が閉じ込められやすいので注意が必要です。
流し込みが済んだら、スラリーを隅々までいきわたらせるため、型枠を軽く叩くか静かに揺さぶります。スラリーは流し込みが終わるころ、固まり始めるのが理想。スラリーが流し込む途中で流動性を失うと失敗。逆にしゃぶしゃぶだと石膏と水が分離します。
ですから、攪拌の終了時間を的確に判断することが大事で攪拌の重さの変化を感知できることが必要です。少し、重いなと思ったら、直ぐに投入します。
後始末と清掃方法
スラリーを流し込んで効果が始まって終わるまでには30分程の時間があります。その間、手際より道具を片づけます。
余ったスラリーは、水を張ったバケツに投入するか、新聞紙に捨てます。スラリーの容器には水を貯め、暫く放置して水の中で硬化させます。攪拌棒は、事前に水を張った洗面器に浸けておきます。
留土や塩ビシートなどは放置しておいて石膏が硬化した後で、水道水を掛けてやると外れます。この際指で押さえると粘土に逆に食い込み取れなくなります。又、この粘土はプラスチック容器などに入れ、石膏型用に保管しておきます。
石膏には硫酸イオンが含まれてますので、轆轤、カンナ、石膏カンナ等を急速に錆びさせます。水洗いをして良く乾燥させ油引きをします。
残った石膏は産業廃棄物ですので、市町村の廃棄基準に沿った処理をします。
離型
離型のやり方はいろいろとあるようですが、京都の窯元では、出来上がった型は、柔らい内に簡単な成型をします。と言っても、ステンレスの金尺などで平面を軽く削り、外周のバリを少し落とします。
その後、焼成室の窯場に一週間程放置しておきます。但し、石膏の乾燥は60℃を超えれはならないとの事で、あくまでも60℃以下の環境に放置します。型の下には焼成時に使う柱(三角形のつく)を2本並べその上に置いて乾燥します。
その環境で1週間放置しておけば、粘土の原形は縮み、逆に石膏は膨張しますから、原形と石膏は自ずと剥離します。
後は、木槌やゴム土で叩いてやれば、簡単に分離します。これで外れないようであれば以下のやり方が有るそうですが、楔を入れて分離する方法以外の方法はその必要もなくやった事はありません。
- こぶしで軽く叩く
- 原形が粘土であれば、石膏にたっぷり水と吸わせて叩く
- ゴムハンマーで叩く 一か所だけではなく、場所を変えて叩く
- 木槌で叩く 型に傷がついたり、割れたるする可能性があります。割れたら木工ボンドで接着
- 割がたであれば、型の合わせ目にノミを入れる。
- ドリルで直径1~2mmの穴を開ける
- 上記のやり方で穴を開け、圧縮空気を吹き込む
修正・仕上げ・乾燥
バリや鋳込み口は表面の凸凹を削って滑らかにします。そして、耐水性のサンドペーパーで水砥をします。耐水ペーパーは150、320、600番見たいなものを3種類程度準備します。(番号が上がれば、だんだんときめ細かくなります。)やり方は小さい石膏型であれば、水道の蛇口で水を流しながら、大きいものはボールなどに水を用意して、耐水ペーパーを洗いながら磨きます。平らな面は耐水ペーパーを木のブロックなどに巻いて磨きます。
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気泡と空洞の修正 鋳込み型などは粘土を詰めて置くこても出来ます。石膏で詰めることも出来ますが、その部分だけ吸水率が変わるので放置した方が良いようです。気泡がひどい時は作りなおします。
修正する本体を水に浸け、スラリーの混水量を少し多めにして、筆で塗ります。
割れた石膏 石膏を水に浸し、接合面を同時にスラリーに浸け、素早く合わせて接合。 もう一つの方法は、木工ボンドや2液性のエポキシ―で接着します。
乾燥
新しい石膏型は、日当たりと風通しの良い場所で乾燥させます。小さいもので2~3日、大きい物では最低1週間~。室内では、防黴の為、木片などを敷き乾燥させます。
前述の如く、窯場や窯付近につくを敷いて乾燥させれば、1週間で乾燥します。但し、60℃以上にならない事。それ以上になると、石膏の中の自由水ばかりだけではなく結晶水までが無くなって、元の半水石膏に戻ってもろくなったり割れたりします。
石膏の乾燥は、温度よりも風の方が効果があるそうで、扇風機で風を当てたら良いとのことです。
まとめ
- 石膏は紀元前から使われている。石膏は硫酸カルシーム(CaSO₄)石膏を意味する英語はPlaster 正式英語名はGymsum)
- 石膏は、海湾や塩湖の水分が凝縮され水と溶けにくい塩や硫酸カルシームが沈殿したもの。自然界で産出する石灰は結晶水を含む、二水石膏と結晶水を含まない無水石膏がある。
- この石膏はそのままでは使えず、二水石膏を加熱して、半水石膏にする必要がある。そのやり方には、圧力釜で蒸す方法と150℃で焼く焼石膏がある。
- 石膏作業で大事なポイントは混水量、混錬の速さと、時間、そして、混水の時間。この要素の違いで石膏の性質が変わる。
- 作業中に石膏(スラリー=水と混錬された石膏)に気泡が出来るだけ入らないようにする。
- 石膏の後始末は、下水には流さない。鉄の道具は石膏の硫酸イオンで急速に錆びる為、良く水で洗い油引きをすること。
- 石膏型の乾燥は60℃以上にはしない.
これで石膏に関する基礎知識を習得されたと思います。最初は小さな、蕎麦猪口やタンブラーなどの一体型のものから始め、分割型に進まれることをお勧めします。
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